レイモンド・チャンドラーの小説から名言を集めたこのシリーズ、第1回の「酒」につづいて、「女性」についての名言を拾ってみました。

チャンドラー名言集 #1 ~酒について

 

・マーロウがはじめてリンダ・ローリングに出会う場面(『ロング・グッドバイ』より)

〈ヴィクターズ〉の店内はずいぶんひっそりして、ドアの中に入ると、温度が下がっていく音さえ聞こえそうだった。バー・スツールには、黒いテーラーメンドの服を着た女性が一人座っていた。こんな季節に着ていられるのだから、オーロンだかなんだか化学繊維で作られたものに違いない。彼女は淡い緑色をした飲み物を前に置き、長い翡翠のシガレット・ホルダーで煙草を吸っていた。細部までくっきりと締まった顔だちだった。それは神経症のしるしかもしれないし、性的飢餓のしるしかもしれないし、あるいはただ極端な食事療法をとっているだけかもしれない。

・マーロウがテリー・レノックスに(『ロング・グッドバイ』より)

「そうむきになるなよ」と私は言った。「女たちだってただの人間なんだ。汗もかけば、身体も汚れるし、洗面所にだって行く。君は何を求めているんだ。バラ色のもやの中をあでやかに飛ぶ黄金の蝶々か?」

・マーロウとリンダ・ローリング(『ロング・グッドバイ』より)

「それともあなたは、バーでは女性に誘いをかけたりしないのかもね」
「あまりやらないね」
「でも多くの女性は、男からの誘いを求めてバーに行くのよ」
「多くの女性は、朝起きたときからそれしか求めちゃいない」

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・マーロウ独白(『大いなる眠り』より)

女たちにとっては--たとえ正常な頭を持った女性であっても--自分の肉体が男を骨抜きにできないという事実に思いあたるのは、容易なことではないのだ。

・ドロレス・ゴンザレスが拳銃をマーロウに差し出して(『リトル・シスター』より)

「おやすみなさい、アミーゴ。私が黒い服を着るのはね、私がきれいでよこしまで、そして--行き場を失っているからよ」

・夜中に部屋を訪ねてきたベティーにマーロウが(『プレイバック』より)

「君は実にいろんな顔を持っている娘だ。今の君はまるでギャングの情婦みたいに振る舞っている。最初に会ったときはおとなしいお上品なお嬢様みたいだった。ミッチェルのようなやくざな色男が君にちょっかいを出すことに眉をしかめていた。それから君は煙草を一箱買い求め、一本をいかにもまずそうに吸った。それから彼に自分を抱かせたーーここに着いたあとでね。それから私の前でブラウスをびりびりと引き裂いた。ははははは。まるでお金持ちのパトロンが帰ってしまったあとの、拗ねたパーク・アヴェニューの愛人みたいに。それから君は私に身を委ね、そのあとで私の頭をウィスキーの瓶でぶん殴った。そして今ではリオでのかぐわしい暮らしの話をしている。朝に目覚めたとき、私の隣の枕に置かれた頭は、いったいどの君の頭なんだろうね」

・マーロウがベティーの流した涙に(『プレイバック』より)

女性が自らの身を護るための方法は限られている。しかし彼女たちは何と巧妙にそれらの方法を用いることだろう。実に驚嘆するしかない。

・レイバリー殺人事件について、マーロウとキングズリーの会話(『水底の女』より)

「同じ動機というわけじゃない」と彼はぴしゃりと言った。「そして女は男よりも衝動的だ」
「猫が犬よりも衝動的なようにですか?」
「女たちの中には、男たちのあるものより衝動的なものもいます。ただそれだけです。もしあなたが、奥さんやそれをやったことにしたいのであれば、もっとしっかりした動機がなくちゃならない」

・マーロウ独白(『水底の女』より)

片隅の青い薄紙の下に、私はいささか好ましくないものを見つけた。どうやら新品らしい、ピーチ色の絹のスリップだ。レースの飾りがついている。この時節、正気を持ち合わせた女性で、絹のスリップをあとに残していくものはまずいない。

・ローラ・バーサリーの動作(「赤い風」より)

女は羽繕いをする小鳥のようにすばやく髪の毛をなで下ろした。一万年の練習の賜物だ。

・アン・リオーダンについて、ランドールとマーロウの会話(『さよなら、愛しい人』より)

「彼女は君に好意を持っているんだよ」
「良い子だ。私の趣味ではないが」
「良い子は気に入らんのか?」、彼は新しい煙草に火を付けた。そして手を振って、その煙を顔の前から払った。
「私はもっと練れた、派手な女が好きだ。卵で言えば固茹で、たっぷりと罪が詰まったタイプが」
「そういう女には尻の毛までむしられるぜ」とランドールはどうでも良さそうに言った。
「承知の上さ。だからいつだってからっけつなんじゃないか。おいおい、あんたはいったい何を言いにきたんだ?」

・ヴァーミリアがマーロウに(『プレイバック』より)

「女の身体は実用に供せないほど神聖なものじゃない。とくに恋愛にしくじった女にとってはね」

・ヴァーミリアがマーロウのところを訪れる(『プレイバック』より)

私は彼女がレインコートを脱ぐのを手伝った。ずいぶん素敵な匂いがした。彼女の脚は、私が観る限りにおいては、眺めるのに苦痛を感じるような種類の脚ではなかった。その脚は淡く透き通ったストッキングに包まれていた。私はその脚をかなり熱心に見つめていた。とりわけ彼女が脚を組み、煙草に火を付けてもらうべく前に身を乗り出したときには。
「クリスチャン・ディオール」と彼女は言った。私の心を読むのはさぞや簡単だったに違いない。「それしか身につけないの。火をお願いできる?」
「今日はもっと多くのものを身につけておられるようだが」と私は言った。彼女のためにライターの火をつけながら。
「朝早くから、よくそんなちゃらいことが言えるわね」
「どの時間であればいいのだろう、ミス・ヴァーミリア?」