体験的仕事論、というジャンルが好きです。
著者の為人(ひととなり)がでていて、空理空論でなく体験から紡ぎ出された言葉に、確かさと自信しそれらに相反する不安と頼りなさとが同居し、そこには伸びしろがある。
それゆえに愛おしい。

この、寄藤文平さんの『デザインの仕事』(講談社)も、そんな1冊。

第一章 デザインの仕事をはじめた時
第二章 デザインの仕事はどう変化してきたか
第三章 アイデアはどのように形にしてゆくのか
第四章 ブックデザインの仕事とは何だろうか
第五章 デザインの仕事を続けていくということ

個人的にはとくにオススメしたいのが第一章。
「寄藤文平は如何にして寄藤文平になりし乎」が率直に書かれている。第二章から最終章までは仕事に対する考えやテクニック論、デザイン論などで、まあ後回しにしてもいい。
読むべきは第一章であります、と声を大にして言いたい。ここに彼の本質が見え隠れしている。

幼少期から絵が好きだったけれど、ロジカルな父親との対話(というより口論)は、彼に冷めた視点を与えた。単なる「デッサン大好き少年」ではなく、絵を描く情熱にたいしていささかの距離を置くことを身につけさせた。
これが後々彼の性格を形づくる。つまりは、何事に対しても相対的な視点を持つという冷静さである。

たとえば、他者に対してこういうコミュニケーションをとるというのは、何とも独特である。

ある興味深い方向性を持った立場を、「正」にあたるものとするならば、そこに対しては、敢えてでも何でもいいから可能性があるほどむしろ批評的な視点を加えて、「反」にあたる反論をぶつけてみます。それで対話をうちに、両者の立場を考慮に入れて考えを深めた「合」という結論に導いていく。そういうコミュニケーションです。

いわゆるアウフヘーベンである。
もちろん、このコミュニケーションが万人に受け入れられ易いものであることは、ない。おかげで彼は友人たちから嫌われたし友だちも去って行った。しかし、その逆で強い味方もあらわれたりしたのである。

この第一章は、まさに寄藤文平さんの為人がでている素敵な一章だ。

もちろん、他の章の〈とっちらかり〉ぶりも、いい。妙に具体的な記述があれば、その反対にとても抽象的で入り組んでいるくだりもあって、均質でないところが読み手を飽きさせない。

読み終わってみれば耳折れページがたくさんできて、収穫の多さに満足感がありました。
またひとつ、仕事論の良い本を見つけることができました!